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「あの人に比べて、自分は全然ダメだ」
——その劣等感は、伸びしろのサインかもしれません。
人と比べて落ち込む。自分の欠点ばかりが目につく。劣等感はつらいものですが、心理学者アドラーは「劣等感は誰にでもあり、人が成長するきっかけになる」と考えました。問題は劣等感そのものではなく、その使い方です。この記事では、劣等感の意味とアドラー心理学の考え方、劣等コンプレックスとの違い、劣等感が強い人の特徴と原因、そして劣等感をバネに変える5つのステップを紹介します。
- 劣等感とは何かが、簡単にわかる
- 劣等感と劣等コンプレックスの違いがわかる
- 劣等感を克服し、成長の力に変える方法がわかる
劣等感とは?意味を簡単に
劣等感(れっとうかん)とは、「自分は他人より劣っている」「自分には足りないところがある」と感じる気持ちのことです。英語では inferiority feeling(インフェリオリティ・フィーリング)、日常的には「コンプレックス」と呼ばれることもあります。
ここで大切なのは、劣等感は「感じ方」だということです。客観的に劣っている点(劣等性)がなくても劣等感を持つ人はいますし、反対に、苦手なことがあっても気にしない人もいます。同じ事実でも、どう受け止めるかで劣等感の強さは変わります。
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 劣等性 | 背が低い、計算が苦手など、客観的に見て人より劣っている点 |
| 劣等感 | 「自分は劣っている」と感じる主観的な気持ち |
| 劣等コンプレックス | 劣等感をうまく処理できず、行動しない言い訳にしてしまう状態 |
アドラー心理学の劣等感|劣等感は「悪いもの」ではない
劣等感を心理学の大きなテーマにしたのは、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーです。アドラーは1907年の『器官劣等性の研究』で、人には誰でも体や能力のどこかに劣った部分があり、それを補おうとする働き(補償)があると考えました。
よく例に出されるのが、古代ギリシャの弁論家デモステネスです。言葉がつかえる悩みを持っていた彼は、それを克服しようと練習を重ね、ついには歴史に残る雄弁家になったと伝えられています。
アドラーは、劣等感を「よりよくなりたい」という気持ちと表裏一体のものとして、むしろ前向きに評価しました。
アドラー心理学の劣等感のポイント
- 劣等感は誰にでもある、ごく普通の感情
- 劣等感は「今よりよくなりたい」という成長の原動力になる
- 問題になるのは、劣等感を言い訳にしたり、見せかけの優越でごまかしたりするとき
アドラーの考え方を人間関係全体に広げた解説は、「人間関係の悩みを解決するには?アドラーの考え方と対処法」で紹介しています。
劣等感と劣等コンプレックス・優越コンプレックスの違い
アドラー心理学では、劣等感を「健全なもの」と「つまずいたもの」に分けて考えます。違いを表にまとめました。
| 種類 | どんな状態? | 口ぐせの例 |
|---|---|---|
| 健全な劣等感 | 理想の自分と比べて「足りない」と感じ、努力のきっかけにする | 「もっとうまくなりたい」 |
| 劣等コンプレックス | 劣等感を、行動しない言い訳に使ってしまう | 「学歴がないから無理」「どうせ自分なんて」 |
| 優越コンプレックス | 劣等感を隠すために、自分を大きく見せようとする | 自慢話、肩書きを強調する、人を見下す |
自慢が多い人や、人を見下す人は、一見自信があるように見えます。しかしアドラー心理学では、その裏に強い劣等感が隠れていると考えます。優越感と劣等感は、裏返しの関係にあるのです。
劣等感が強い人の特徴|セルフチェック
当てはまるものが多いほど、劣等感に振り回されている可能性があります。
あなたはいくつ当てはまる?
- 人の成功を聞くと、素直に喜べず落ち込む
- SNSを見たあと、自分がみじめに感じる
- ほめられても「お世辞だろう」と受け取れない
- 失敗を極端に恐れて、挑戦を避けてしまう
- 「どうせ自分なんて」が口ぐせになっている
- 人の欠点を見つけると、少しほっとする
- つい自分の実績や持ち物を自慢してしまう
最後の2つは意外かもしれませんが、劣等感を隠そうとする心の動き(優越コンプレックス)のあらわれです。
劣等感の原因|なぜ人と比べて苦しくなるのか
劣等感が強くなる背景には、いくつかの共通点があります。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 人との比較(社会的比較) | 心理学者フェスティンガーは、人は自分を評価するために他人と比べる性質があると考えました。自分より上の人とばかり比べる(上方比較)と、劣等感が強まります |
| SNS | SNSには人の「いいところ」が集まりやすく、上方比較が起こりやすい環境です。Facebookを多く使う人ほど自己評価が低い傾向があり、その背景に上方比較があるという研究もあります |
| 親・兄弟との比較 | 「お兄ちゃんはできたのに」など、子どもの頃に比べられ続けた経験は、大人になっても劣等感として残りやすいといわれます |
| 失敗やいじめの経験 | 否定された経験が「自分はダメだ」という思い込みになり、似た場面で劣等感がよみがえります |
| 完璧主義 | 「100点でなければ0点」と考えると、どんなにがんばっても足りない部分ばかりが目につきます |
場面別の劣等感|仕事・恋愛
仕事:同期の昇進、仕事のできる同僚、後輩の活躍などで劣等感を持つ人は多いものです。仕事の劣等感は「辞めたい」という気持ちにつながることもあります。まずは、比べる相手を「他人」から「半年前の自分」に変えてみてください。できるようになったことが、意外と多いことに気づくはずです。
恋愛:恋愛経験の少なさや見た目の劣等感から、人と親しくなることを避けてしまう人もいます。けれども、相手が見ているのは経験の数や外見だけではありません。劣等感から「どうせ好かれない」と決めつけることこそが、関係を遠ざける原因になります。
劣等感を克服する方法|バネに変える5つのステップ
劣等感を「なくす」必要はありません。目指すのは、劣等感を前に進む力として使えるようにすることです。
1. 比べる相手を「理想の自分」に変える
他人と比べると、上にはきりがありません。アドラー心理学では、健全な劣等感は「理想の自分」との比較から生まれると考えます。「あの人より下」ではなく「なりたい自分まで、あと少し」と考えると、劣等感は目標に変わります。SNSを見る時間を減らすのも効果的です。
2. 「だから無理」を「それでも、できること」に言い換える
「学歴がないから無理」「年だから無理」と思ったら、劣等コンプレックスのサインです。「それでも今できることは何か」と言い換えてみましょう。言い訳を一つ手放すたびに、行動の選択肢が増えます。
3. 事実と思い込みを分けて書き出す
劣等感を感じた場面を紙に書き、「事実」と「自分の解釈」に分けます。「会議で発言できなかった(事実)」「みんなに無能だと思われた(解釈)」のように分けると、苦しめているのが事実ではなく解釈のほうだと気づけます。
4. 自分に「友人にかける言葉」をかける
心理学者クリスティン・ネフが提唱したセルフ・コンパッションの考え方です。同じ悩みを持つ友人には「誰にでもあるよ」と声をかけるはずです。その言葉を自分にもかけてあげましょう。自分を責めるのをやめると、かえって挑戦する気力がわいてきます。
5. 小さく挑んで「補償」を体験する
苦手なことに小さく挑むか、得意なことをさらに伸ばします。どちらもアドラーのいう「補償」です。また、人の役に立つ経験(貢献)は、「自分にも価値がある」という感覚を育ててくれます。
劣等感から「何をしても無駄」とあきらめる気持ちが強くなっている場合は、「学習性無力感とは?克服する方法」も参考にしてください。体を鍛えて「昨日の自分を超える」体験を積む方法は、「筋トレの効果とは?メンタル・自己肯定感を高める」で紹介しています。
劣等感がつらすぎるとき
一人で抱え込まないで:劣等感から気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、仕事や家事が手につかない、外に出るのが怖いといった状態があるときは、心療内科・精神科やカウンセラーに相談してください。働く人は厚生労働省の相談サイト「こころの耳」の電話・SNS相談も利用できます。
劣等感の克服に役立つ本
アドラー心理学の劣等感の考え方を、対話形式でわかりやすく学べるベストセラーです。劣等感と劣等コンプレックスの違いも、具体的な例で解説されています。
『嫌われる勇気』の著者の一人、岸見一郎さんによる入門書です。劣等感、勇気づけ、人間関係の考え方が、新書でコンパクトにまとまっています。
劣等感についてよくある質問
劣等感はなくしたほうがいいですか?
なくす必要はありません。アドラーは、劣等感は誰にでもあり、よりよくなろうとする力の源だと考えました。大切なのは、劣等感を言い訳にせず、目標に向かう力として使うことです。
劣等感と劣等コンプレックスの違いは?
劣等感は「自分は足りない」と感じる気持ちそのもので、努力のきっかけにもなります。劣等コンプレックスは、その劣等感を「だから自分にはできない」と行動しない言い訳に使ってしまう状態です。
劣等感が強い人とどう付き合えばいい?
結果よりも、その人の努力や工夫を具体的に認めることが助けになります。ほかの人と比べるような言い方は避けましょう。自慢や攻撃的な態度が目立つ場合も、裏に劣等感があると考えると、少し冷静に受け止められます。
劣等感と優越感は関係がありますか?
深い関係があります。アドラー心理学では、劣等感を隠すために自分を大きく見せようとする状態を「優越コンプレックス」と呼びます。過剰な優越感は、強い劣等感の裏返しであることが多いのです。
まとめ:劣等感は「なりたい自分」への入り口
劣等感は、誰にでもある自然な感情です。アドラーが言うように、劣等感は「今よりよくなりたい」という気持ちの裏返しでもあります。苦しくなるのは、他人と比べすぎたときや、劣等感を言い訳にしたときです。今日はまず、比べる相手を「他人」から「理想の自分」に変えて、そこに近づくための小さな一歩を一つ決めてみてください。
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参考にした資料
- Adler A. Studie über Minderwertigkeit von Organen.(器官劣等性の研究)1907.
- コトバンク「劣等感」(日本大百科全書、世界大百科事典ほか)
- Festinger L. A theory of social comparison processes. Human Relations. 1954;7(2):117-140.
- Vogel EA, et al. Social comparison, social media, and self-esteem. Psychology of Popular Media Culture. 2014;3(4):206-222.
- Neff KD. Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity. 2003;2(2):85-101.
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社、2013年
- 岸見一郎『アドラー心理学入門』ベスト新書、1999年
- 厚生労働省「こころの耳」
