人生を大きく変える出来事ほど、私たちは事前に予測できないのかもしれません。
突然の金融危機、思いがけない技術革新、予想もしなかった出会いや別れ。出来事が起きた後なら、私たちはその理由をいくらでも説明できます。では、起きる前に同じことを言えたでしょうか。
突破ラボ第4弾で紹介するのは、ナシーム・ニコラス・タレブの『ブラック・スワン』です。『反脆弱性』の著者が、人間の予測と知識の限界を鋭く問い直した一冊です。
ブラック・スワンとは何か
かつてヨーロッパでは、白鳥は白いものだと考えられていました。しかし、オーストラリアで黒い白鳥が確認され、それまでの常識は覆されました。
タレブはこの逸話から、一般に予想の範囲外にあり、ひとたび起きると非常に大きな影響を及ぼし、事後には説明できたかのように語られる出来事を「ブラック・スワン」と呼びます。
重要なのは、珍しい出来事というだけではありません。私たちの知識や予測の枠組みそのものが、重大な可能性を見落としていることです。
人間は、知っていることから世界を判断する
私たちは経験を積むほど、世界の仕組みを理解した気になります。昨日まで問題が起きなかったから、明日も大丈夫だろう。過去のデータが安定しているから、将来も大きくは変わらないだろう。
しかし、過去に観測されなかった出来事が、未来にも起こらないとは限りません。
タレブが警戒するのは、わからないことがあるという事実よりも、自分が何を知らないのかさえ見落としたまま、確信を深めてしまうことです。
後からなら、何でも説明できる
大きな出来事が起きると、ニュースや解説には原因が並びます。あの兆候があった、この判断が転機だった、と。
もちろん原因を検証することは重要です。しかし、結果を知った後に筋の通った物語をつくれることと、結果を知らない段階で予測できることは別です。
タレブは、複雑な現実を単純な物語にまとめて納得してしまう人間の傾向を問題にします。
過去を説明する能力が高いからといって、未来を見通す能力まで高いとは限らないのです。
平均的な出来事だけを見てはいけない
身長のように極端な値が全体に与える影響が比較的小さいものもあれば、資産、書籍の売上、企業の価値のように、ごく少数の極端な事例が全体を大きく左右するものもあります。
後者の世界では、「普通はこのくらい」という感覚だけでは危険を見誤ります。
大きな損失がめったに起こらないからといって、無視してよいわけではありません。頻度が低くても、一度起これば取り返しのつかない結果を招くことがあります。
未来を当てるより、外れたときに備える
ここからは突破ラボとしての考察です。未来の予測が難しいなら、私たちは何も計画できないのでしょうか。そうではありません。
一つの予測が正しいことを前提に、人生や事業のすべてを賭けない。想定外の出費や失敗に耐える余裕を残す。新しい可能性に出会えるよう、小さな挑戦を続ける。
こうした姿勢は、未来を正確に言い当てることとは違います。
大切なのは、予測が当たることだけでなく、予測が外れたときにも次の一手を残しておくことです。
『反脆弱性』と合わせて読む意味
『ブラック・スワン』は、私たちが不確実な世界を十分に理解できていないことを示します。
一方、『反脆弱性』は、予測できない変動に対して、ただ耐えるだけでなく、そこから利益を得られる仕組みを考えます。
この二冊を続けて読むと、問いがつながります。「未来は予測できるのか」から、「予測できない未来をどう生きるか」へ。
突破ラボがこの本を紹介する理由
人生の転機は、計画どおりに訪れるとは限りません。成功も失敗も、後から振り返れば理由が見つかるかもしれません。しかし、その理由だけで次の未来が決まるわけではありません。
だからこそ、過去の成功に酔わず、失敗を一つの物語に閉じ込めず、自分の考えが間違っている可能性を残しておきたいのです。
『ブラック・スワン』は、不安をあおる本というより、知っているつもりになることの危うさを教える本だと感じます。
最後に|あなたの想定外は、どこにあるか
私たちは、未来のすべてを知ることはできません。それでも、知らないことがあると認めることはできます。
今の仕事が続くという前提。今の収入が変わらないという前提。自分の判断は正しいという前提。
もし、そのどれかが突然崩れたらどうするでしょうか。
本当の備えとは、未来を一つに決めつけないことなのかもしれません。
書籍情報
書名:『ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質』/著者:ナシーム・ニコラス・タレブ/ジャンル:リスク論・経済・哲学/おすすめの読者:経営者、投資や事業に関わる人、予測や常識を疑う視点を持ちたい人
※本記事は書籍の論点を踏まえた独自の書評です。人生や事業への応用には突破ラボ独自の解釈を含みます。